「帳簿方式」で何が悪い

元静岡大学教授・税理士 湖東京至

帳簿方式を採用したのはなぜか

1987年(昭和62年)に、中曾根内閣が国会に上程した「売上税」の仕入税額控除はインボイス方式(税額票)によっていた。それが廃案となり、竹下・消費税は「帳簿方式」を採用せざるを得なかった。

竹下内閣が国会に消費税を提出するにあたり、基本的仕組みを「税制改革法」(昭和63年法律107号)として制定した。その中で「その仕組みについては、わが国における取引慣行及び納税者の事務負担に極力配慮したものとする」(同法10条第2項)とうたい、仕入税額控除を「帳簿方式」にしたのである。

帳簿方式でも累積課税を排除できる

消費税・付加価値税は仕入税額控除によって、税に税がかかる累積課税を排除する仕組みをとっている。インボイス方式は請求書・領収書に税額を表示し、かつ税務署の登録番号を記載することにより、仕入等にかかる控除額をいかにも正確であるように「見せかけるもの」である。しかし、自由経済の下では価格は市場競争で決まる。税を上乗せするか、価格から割込んで税を書くかも力関係で決まる。

帳簿方式は消費税を納税しない免税事業者や消費者からの仕入等も控除対象とするから控除額が不正確であるかのようにいう。だが、税の累積課税を排除するためであれば、仕入等の事実を担保する請求書等の保存があればその目的は充分達成させられる。帳簿方式で何が悪いのか。

簡易課税制度はインボイス制度と矛盾

務省は簡易課税制度を残すという。簡易課税制度は中小事業者の事務負担を配慮して設けられた制度であり、インボイス制度になっても仕入税額控除を適格請求書によらず、みなし仕入率によって行う。簡易課税制度の存在はインボイス制度と矛盾する。

簡易課税選択事業者(2事業年度前の売上高5,000万円以下の者)は消費税の申告件数317万の35.8%、113万もいる。加えてインボイス制度になれば課税を選択した零細事業者のほとんどが簡易課税を選択するからその数は数百万にのぼる。

フランスでは1998年12月末に簡易課税制度を廃止した。ドイツの簡易課税適用水準は61,356ユーロ(1ユーロ135円として約828万円)と低い。現行簡易課税制度を残しておいて何がインボイス制度か。

基準期間2年前としているのは帳簿方式だから

わが国の免税事業者や簡易課税制度の判定は2事業年度前の売上高によって行っている。なぜ2事業年度前によるかといえば、企業の決算で売上高が確定する決算主義(帳簿方式)をとっているからだ。つまり決算確定時にはすでに当年度が進行中だから、事業年度開始時に免税か否か判定できない。2事業年度前を判定基準とするのは帳簿方式だからなのだ。

インボイス制度によっているEU諸国等は当年度または前年度によって判定する。当年度に発行したインボイスを集計すれば売上高が把握できるからだ。財務省が2事業年度前基準期間を残すということは、すなわち帳簿方式を残すということだ。

帳簿方式は企業・事業者の決算額から消費税の納税額を算出するメリットや、税務署も法人税や所得税担当が同時に管理・調査をすることができるという利便性がある。帳簿方式で何が悪いというのか。